みさやま紬


信州・松本市を流れる女鳥羽川を北へ登っていくと三才山(みさやま)の集落があります。山深く自然に囲まれた地で、かつては日本全国どこでも行われていた養蚕と農業の村でした。そこに織物上手な夫婦がいました。横山英一さんと和子さん。昭和40年頃、柳宗悦や浜田庄司によってはじめられた民芸運動の後押しがあり、美しい紬織物「みさやま紬」が生まれました。現在は、二代目・横山俊一郎さんが受け継ぎ、ひとつずつ丁寧に織られています。
 
 みさやま紬は経糸が絹糸(精錬糸)、緯糸が真綿糸(紬糸)を使う平紬です。経・緯とも真綿糸の結城紬に比べサラリとした風合いがあります。この経・緯の構成は他の信州紬も同様ですが、みさやま紬の特徴は草木染めにあります。裏山に自生するクリ・ヤマウルシ・ナラ・クルミ・サクラ・ウメ・クヌギなどの木を伐って使います。染めた色の退色しにくさを堅牢度といいます。草での染めは堅牢度が低いのに対し木で染めると堅牢度が高いのです。ただ、1回の染めは極極薄くしか染まりません。染めては干し、染めては干しを繰り返します。
 
 同じ木でも、春伐ったものと、秋伐ったものでは色が違います。染めるときの気候によっても色が変わります。「一期一会の色」と俊一郎さんが言う通り、自然から出た自然の色なのです。「木の中には、赤、だいだい、黄色、緑、青、紫、金の色が全部入っているから、どの色でも配色がよくて違和感がないだ」と栄一さんがいわれました。化学染料を使わない、自然の色同士で織られた、やさしい色が「みさやま紬」の特徴です。
 
 木の伐採や染めに必要な藁や玉葱作りの農業から、
染色、最後の織まで家族だけでこなす横山家が作る
「みさやま紬」は、土日も休みなく働いても、1ヶ月
に多くて10反しかできません。草木染めにこだわ
り、正直一途に作られている、日本でも数少ない紬
のひとつです。失われつつある手仕事の技。自然か
ら得られるわずかな色を時間をかけて染め重ねた、
ぜいたくで希少な作品です。

2008年9月京濱通信


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